HCM通信 2026年1月号|人に関する経営判断を、整理する

人的資本経営とは「人事施策」ではなく「経営判断」である

◆人を「どう使うか」ではなく「どう決めるか」を問う

「人的資本経営」という言葉が注目される中で、多くの企業が人事制度の見直しや指標の導入に着手しています。しかし現場では、「結局、何が変わったのか分からない」「制度は整ったが、判断は楽になっていない」といった声が聞かれます。

その背景には、人的資本経営が“人をどう管理するか”“どのような施策を打つか”という人事施策の延長として捉えられている現状があります。しかし、本来の人的資本経営は、人に関する判断を経営としてどう行うのか、その軸を明確にする取り組みです。

例えば、評価制度を変更すべきかどうか、管理職にどこまで判断を委ねるのか、あるいは今はあえて決めないという判断をするのか。これらはすべて、経営者が向き合うべき意思決定です。

判断の基準が明確でないままでは、その都度場当たり的な対応となり、同じような迷いが何度も繰り返されることになります。

◆測る前に、まず「判断の軸」を整える

ISO30414をはじめとする人的資本の指標は、経営判断を支えるための有効なツールです。しかし、判断の軸が整理されていない状態で数値だけを追いかけても、経営の意思決定に十分に活かされないケースが多く見受けられます。

HCM では、人的資本を測定する前に、経営者自身が「どのような基準で人に関する判断をしているのか」を整理し、言語化することが不可欠だと考えています。

判断の軸が明確になって初めて、指標やデータは意味を持ち、経営の意思決定を支える材料となります。人的資本経営とは、測定や開示を目的とするものではなく、経営判断の質を高めるための取り組みなのです。

社労士業務の役割は「守る」から「判断を支える」へ

◆労務はブレーキではなく「ガードレール」

労務コンプライアンスは、企業経営における最低限のルールであり、同時に経営判断を行う際の重要な前提条件でもあります。法令違反を防ぐことは当然ですが、それだけでは十分とは言えません。

実務の現場では、「法的には問題ないが、経営として判断に迷う」「どこまで踏み込んでよいのか分からない」といった声を多く耳にします。こうした状態では、判断そのものが先送りされ、結果として同じような問題が繰り返されてしまいます。

本来、労務は経営判断を止めるためのブレーキではなく、安心して判断を行うためのガードレールとして機能すべきものです。どこまでが許容範囲で、どこからがリスクになるのかを示すことで、経営者は自信を持って意思決定を行うことができます。

◆「法令対応」から「経営判断を支える労務」へ

社労士業務は、単に法令を解釈し、是正対応を行うことではありません。その判断が後から否定されないか、社内外に説明できるかという視点で、経営を支える役割を担っています。

HCMの社労士法人では、これまでの労務対応を通じて蓄積してきた知見を、経営判断を支えるための基盤として位置づけています。一方で、労務対応だけでは整理しきれない「人に関する経営判断の迷い」が存在することも事実です。

そこで、株式会社HCM人的資本コンサルティングとの連携により、労務・人的資本・組織の視点を横断して、経営判断そのものを整理する「統合診断」という考え方を進めています。

統合診断は、何か新しい施策を提案するためのものではありません。制度を変える前に、今どこで判断が止まっているのか、何を決め、何を決めないのかを整理するための取り組みです。結果として、経営判断の質と再現性を高めることを目的としています。

社労士法人と株式会社が役割を分担しながら連携することで、「守る労務」と「経営判断を整える視点」を無理なくつなぎ、企業の持続的な成長を支える体制を整えていきたいと考えています。

1月の税務と労務の手続期限[提出先・納付先]

13日

  • 源泉徴収税額(※)・住民税特別徴収税額の納付[郵便局または銀行]

※ただし、6ヶ月ごとの納付の特例を受けている場合には、令和7年7月から12月までの徴収分を1月20日までに納付

  • 雇用保険被保険者資格取得届の提出<前月以降に採用した労働者がいる場合>[公共職業安定所]

2月2日

  • 法定調書<源泉徴収票・報酬等支払調書・同合計表>の提出[税務署]
  • 給与支払報告書の提出<1月1日現在のもの>[市区町村]
  • 労働者死傷病報告の提出<休業4日未満、10月~12月分>[労働基準監督署]
  • 健保・厚年保険料の納付[郵便局または銀行]
  • 労働保険料納付<延納第3期分>
  • 外国人雇用状況の届出(雇用保険の被保険者でない場合)<雇入れ・離職の翌月末日>[公共職業安定所]

本年最初の給料の支払を受ける日の前日まで

  • 給与所得者の扶養控除等(異動)申告書の提出[給与の支払者(所轄税務署)]
  • 本年分所得税源泉徴収簿の書換え[給与の支払者]

HCMよりひと言

新年号より、HCM通信は少し趣を変えています。

これまでは制度や法改正といった個別テーマを中心にお届けしてきましたが、2026年からは「人に関するテーマを、経営としてどう考えるか」という視点を、より大切にしていきます。

すぐに答えが出る話ではありませんが、だからこそ立ち止まり、考える時間を共有できればと考えています。本通信が、経営判断を見つめ直す小さなきっかけになれば幸いです。

本年もどうぞよろしくお願いいたします。